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左からMichael、藤田、Karl

“Talk session”- Michael&Karl&Fujita

2016年に藤田貴大さんが演出した作品『ロミオとジュリエット』の衣装を trippen が提供したことにはじまり、『sheep sleep sharp』 『BEACH』 『BOOTS』 『BEACH CYCLE DELAY』 など多くの作品で協働してきた mum&gypsy と trippen。
2024年11月、trippen のデザイナーである Michael Oehler と息子で同じくデザイナーの Karl Hoess が来日し、これまで靴を介してやり取りを行ってきた3人が初めて顔を合わせることができました。
Michael 手土産のクッキーをかじりながらの3人の”おしゃべり”の様子をご紹介します。

Michael(以下 M)&Karl(以下 K)&Fujita(以下 F):はじめまして!ようやく会えてうれしいです。

F:mum&gypsy では、2016 年からこれまで多くの作品で trippen の靴とご一緒してきました。
僕は trippen のコレクションからとても影響を受けている部分があるので、お会いできるのがとても楽しみでした。
新しい作品に”Chair/IL POST”というものがあるんですが、それは立つという動作、座るという動作、そして靴というものがインスピレーションとなっています。
靴って立って歩くためだけじゃなくて、座っているときにも履いているものでしょう。
この作品は来年イタリアでツアーします。フィレンツェ、アレッツォなどで。

Speed – Autumn Winter 18/19

それから trippen の影響という話だと、speed がテーマだった時のビジュアルはとても印象的でした。
僕は役者の横の姿がすごく好きなんですけど、speed がテーマのコレクションで、靴のシルエットが連続して連なったビジュアルがあって。それで役者の動きもそこに影響を受けたものを作った、と言うことがありました。
そんな風に trippen のコレクションから自分自身大きなインスピレーションを受けるのですが、毎シーズンのコレクションテーマやイメージはどのように決めているのですか?

M:コレクションのデザインをまず作り、その後にそれに沿うようなテーマを探しています。
テーマはコレクションの一部。デザインは突然降ってくることもあるし、そうでないこともあるけれど、自分が実現したいものやイメージがまずあって、それを現実にあらわすのがデザインの作業となっていきます。

F:では実際に色などを決めていくときはイメージが先にあるのですか?それとも話し合いの中で決まっていくもの?

K:どちらが先かと言うのはその時によります。

M:250 色近い色がすでにあるので、まず新しい色を考える前に、持っている色を見返して好きな色を考えます。そして、なければ足していくという作業になります。
また染色と鞣しの問題もあります。染めだけでパントーンカラーのような色表現をするのは難しいのです。

── mum の新作 『Chair/IL POST』 では足元を trippen の t-project シリーズで揃えています。 t-project を手がけているのが Karl です。Karl の場合はデザインをどのように組み立てていますか?

t-Project

K:自分の場合はファッションの勉強をしてきました。大手のファッションブランドは流行に乗って、 サスティナビリティについては扱っているけれどとても表面的に感じていたので、自分はもっと深いところを探りたかった。それでプラスチックの問題にテーマを置いたデザインを行っています。

M:『Proto』はカールに嫉妬するアイデアだったよ。

── ちなみに Karl は first trippen を覚えている?

K:trippen の Kids ラインは僕のために作られたものです。Kids ラインはしばらく続きましたが、作るのに大人の靴と同じコストがかかるけれど、同じ値段では売れないのが難しいところなんです。

M:仲間内が子育て世代だった時や、店のオーナーさんの間ではプレゼント用に大人気だったけれど、今はそうじゃないからね…。次の世代が出てくればまた Kid’s ラインもありかもしれない。

── 藤田さんの first trippen は?

F:mum&gypsyで長く仕事をともにしている青柳いづみさんは、20代のころから他のカンパニーの仕事でよくドイツに行っているのだけど、その時にベルリンの trippen のアウトレットに行って靴を買ってきてもらったんです。それが20歳くらいの時で、それが初めての trippen だった。たぶん『Zeus』かな。だから、その後『ロミオとジュリエット』でスタイリストの大森伃佑子さんが trippen の靴を持ってきてくれた時はうれしかったな。

F:Michaelは昔演劇用の靴を手がけていたと聞いたことがあるのですが、もともと演劇には興味があったのですか?
また、ドイツの方でも最近演劇等で使用するケースがありますか?

M:演劇ではなく映画だと、ハリウッド映画、例えばスターウォーズ、スタートレック、アバター、ドクターストレンジなどで使用されましたね。ロゴは消されていたけど。マトリックス 4やDUNEもだ。もちろん演劇でも履いてもらうケースは多くあります。

M:24-34 歳の頃かな、trippen を立ち上げる前に舞台の衣装用の靴をたくさん作っていました。その作業はとても好きでした。
若い時は何をやればいいか分からなかったから、誰もやっていないことをやりたかったんですね。
陶芸やジュエリーは人気だったけど、靴は誰もやってなかったから。でも靴はフィットしないといけないから失敗が多くてはじめは大変でした。

M:そういった経験の後、ナチュラルなフォームのラストをキープしながら、上に装飾のデザインを加えるやり方にたどり着いて、フィッティングの問題を解決するようにしたんです。
この時期の経験はいまの trippen の靴づくりに繋がっていますね。

F:ドイツではケルンで上演したことがありますが、trippen のあるベルリンにはまだ行ったことがないので、ぜひ行ってみたいです。

M:工場に来たら、パーツごとに好きな革を自分で選んで、ミシンで縫ってもらって…という”treasure hunt”ツアーをプレゼントするよ!

K:ベルリンにおいでよ!

F:はい!ぜひ。

藤田貴大 / 演劇作家
1985年4月生まれ、北海道伊達市出身。桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻。2007 年に「マームとジプシー」を旗揚げ、以降全作品の作・演出を担当する。作品を象徴するシーンを幾度も繰り返す“リフレイン”の手法で注目を集め、2011年6~8月にかけて発表した三連作「かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。」で第56回岸田國士戯曲賞を受賞。以降、さまざまな分野の作家との共作を積極的に行うと同時に、演劇経験を問わずさまざまな年代との創作にも意欲的に取り組む。2013年、2015年に太平洋戦争末期の沖縄戦に動員された少女達に着想を得て創作された今日マチ子の漫画『cocoon』を舞台化。同作で2016年第 23 回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞、今年は7月-9月にかけて、7年ぶりのツアーを実施した。演劇作品以外でもエッセイや小説、共作漫画の発表等活動は多岐に渡る。
マームとジプシー / mum-gypsy.com